2009年06月25日

やなぎ屋主人(+G)/つげ義春 〜よろずや食堂探訪記 前編〜

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2009年6月23日(火)、急に思い立って横須賀線の電車に乗り、横浜から千葉まで行った。そこから内房線に乗り換えた。6月の初めから、お天気になったら撮影したい写真があり、ずっと青空を待っていたが、生憎の梅雨空でいつまでたっても撮影のチャンスがなく、いい加減くさくさしていた。

内房線に乗り、長浦という駅で降りて近所に「よろずや」という食堂がある。つげ義春の昭和45('70)年のマンガ「やなぎ屋主人」の舞台となった食堂、その地である。熱心なファンの方がそこを訪れた記事をいくつか、インターネットで読んだ。食堂内の様子は、40年も前につげ義春が描いたマンガの絵と現在も変わっておらず、そのままだという。横浜からは2時間弱でいける。また翌日も天気が悪ければこれに行こう、と思うともうたまらなくなった。そして翌日、自作人形の「ゲンセンカン主人(これもつげ義春マンガのキャラクター)」を持って、出かけた。
(自作フィギュア)

紅い真っ赤な
ハマナスが
海を
見てます
泣いてます


あれは去年の
4月頃
だった

あの唄をきいて
ぼくは突然
海が見たく
なり

新宿から
房総行きの列車に
とび乗って
しまった
のだ


あの頃はいつも
あんな衝動に
かられそうな気持ちに
なっていた


作中より。今なら、その時のつげ義春の心情が分かる気がした。空はどんよりと曇っている。・・と独り寂寥感に浸っていたら、千葉につく頃には次第に青空が明るく広がった。あれ? 何か違うぞ(笑)。

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長浦の駅を降りた。とりあえず海の方に向かった。ネットの記事で、駅から街道を歩いた道沿い、駅近くの地図に「よろずや」の文字がある、とだけ知っていた。何百メートルか歩くと、道路と、向こうに工場が見える埋立地だけになった。これはまずいと、駅に引き返した。駅前の地図があったのでまじまじと見直したが、どこにもよろずやが書かれてない。

ここまで来て見つからなかったらと思うと、気持ちが暗くなってきて、ああこれこそつげ義春の旅にふさわしいなどと考えようとしたが、いや笑い事ではない。だんだんドキドキしてきた。携帯で、ネット記事をもう1度見直してみた。駅から階段を降り・・とある。そういえば、海側だとばかり思って歩道橋を渡るために階段を登って降りたが、その横にもうひとつ下りの階段があった。そこから少し歩くと、”大衆食堂”の暖簾の店がある。・・これだろうか?

簡単に見つかると今度は逆に拍子抜けしてさらにドキドキする。向かいの薬屋さんで尋ねてみると、そうだという。店に向かった。暖簾を分けて、戸を開けた。

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店内には、おかみさん、そしてご近所さんだろうお爺さんとおじさんがビールを飲んでいた。不審人物と思われないよう、軽く会釈して目だけで素早く店内を見回すと、私のすぐ正面に、つげ義春が入ったコタツの部屋、右奥には、マンガのコマと同じだという入り口と岡持ちがあった。本当にここがそうだ。


左側に貼られたお品書きに「カツ丼 七五〇」の文字があった。つげ義春が食べた、そのカツ丼を食べに来たのだ。


「え…と、カツ丼下さい」

おずおずと注文した。すると・・

「あらっ!!」

おかみさんは、いたずらっ子を見つけたように笑って、あらやーねぇ奥さんといった感じのよくある手振りで、右手をぽんとこちらに振った。

「あぁー、ハイ、…そうです」


私も苦笑いで答えた。これで全て通じてしまった。あー、緊張した(笑)。

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コタツの部屋。土壁と木の柱。子供時代に知っている、父、母の改装前の実家を思い出す。窓の向こうがすぐ山肌になっているのが、昨年暮れに亡くなった私の父の実家と偶然同じだった。


おかみさんは、とてもチャーミングで、快活な方だった。ご近所さんのお二方に、私の目的を説明してくれた。今年は私で3人目(3組)だと。一昨年くらいからつげファンの来店が増えたようだ。ご迷惑でないかお尋ねすると、「もう大歓迎よ。どんどん来て頂戴」。写真も「どこでも自由に撮って頂戴」と。・・ファンにとってはさすがに伝説の店なので(笑)、実はまだ緊張しているのだが、おかみさんの明るさのおかげで気持ちがほぐれてきた。カツ丼が出来るまで、ビールを1本頼み、飲んだ。

「こうして、飲める酒をわざと飲んでみるのも…」と呟いた。(※)作中では「飲めない」ですよね。

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カツ丼が出来上がった。これが、つげ義春も食べた、あの、カツ丼である。おかみさんがトントンと肉を切る厨房が席から見え、まさにおふくろの味。ウエストポーチからゲンセンカン人形を取り出して、記念撮影。

「この人形の、これは違うマンガですけど、お面を取った状態がこちらのマンガ(「やなぎ屋主人」)と大体同じなんです」

お二方のご近所さんの、ご年配の方のおじいさんが、私が店に入った時にちょうどお酒が適量になっていたので、おかみさんが車で送っていくという事で、もう一方のおじさんと私とで留守番をする事になった。「カツ丼ゆっくり食べててくださいね」

おじさんがその頃住んでいたという、昭和40年代の新宿の様子などを聞かせて頂いた。ビリヤード・バーや、フォーク・ミュージシャンや大立者のお話。小旅行で、何か得した気分。本当につげ作品の世界に来たようだ・・。

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マンガのコマと、本当にそのまんま、岡持ちの位置まで同じだった右奥の入り口。岡持ちはずっとこの位置なのだという。

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おかみさんが戻られたので、お断りをしてゲンセンカン人形で記念撮影。

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お礼に、おかみさんのポートレートもたくさん撮影させて頂きました。ゲンセンカン人形を抱っこしてもらって(笑)。ありがとうごさいました。この後プリントして、お送りしますね。

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おかみさんお勧めの、この店一番人気の撮影スポット。「ちょっと神様の横を失礼します」と、台所の神様にご挨拶をして、ゲンセンカン人形を横に立たせて頂きました。


さて写真を撮ったり、楽しくお話させて頂いている間に、ずい分時間が過ぎた。おかみさん、また来ます。ありがとうございました。そろそろ暗くなる前に、海の方の写真も撮影しておこうと、ひとまずよろずや食堂を後にした。

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やなぎ屋主人(+G)/つげ義春 〜よろずや食堂探訪記 後編〜 に続く
posted by bonso at 23:38 | Comment(8) | つげ義春
この記事へのコメント
まんがのロケ地めぐりですね!
コレは楽しそう。
お店の人が理解してくれてるのも面白いです。
Posted by マグ公 at 2009年06月26日 20:20
>マグ公ちゃん

いや〜楽しいー! 前々からやってみたかったのだ。

今度はやはり、つげ先生の”あのキャラクター”を作って、温泉巡りとかしてみたいね。
Posted by bonso at 2009年06月26日 20:54
はじめまして。

私も水木漫画のキャラを細々と作っているので、興味を持ってこちらのブログにお邪魔させていただいたのですが...

「ゲンセンカン主人」人形、最高ですね!
色味もデフォルメ感も絶妙です...

私のブログもお暇な時にでも是非覗きに来てください。
Posted by c.u.t at 2009年07月22日 01:10
c.u.tさん、はじめまして。

「ゲンセンカン主人」お褒め頂きありがとうございます。

c.u.tさんのブログ、大海獣対決を作った時に辿り着いて拝見してました(笑)! 次はつげキャラもお願いします!
Posted by bonso at 2009年07月22日 01:22
コメントありがとうございます!

こちらの大海獣も見ていただいていたとは驚きです。
お互い研究熱心ですね(笑)

つげキャラのフィギュアは考えてなかったです...
もし量産ができるのであれば管理人さんの「ゲンセンカン主人」私を含め欲しい人はけっこういると思います。
Posted by c.u.t at 2009年07月22日 09:23
ご返信ありがとうございます。

古いマンガのキャラクターフィギュアにはなかなかお目にかからないので、やはり探してしまいますね。

私が作ったのは軽量ふわふわ粘土製なので、複製が出来ないのです。現在、カントー粘土会というコミュニティで他の粘土も勉強させて貰ってますよ。

カントー粘土会
http://www.bonso.org/miracle3/c-board.cgi?cmd=;id=nendo
Posted by bonso at 2009年07月22日 19:28
はじめまして。藤沢在住48歳男性です。私が初めてねじ式を読んだのは高校生のとき、もう30年ほど前のことです。つい最近つげ熱が再発しまして、仕事で幕張へ行くことがあったので、よろずやさんを訪れてみました。が、お店には緑色のネットがかかっており、休業中のようでした。電話してみると、大女将さんらしき方が出られて、ずいぶん営業していないとのこと、がっかりして帰ってきました。壊すわけではないようなので、内装はあまりいじらずに再開していただけることを切に願うものであります。
Posted by ダイク at 2011年11月26日 15:08
ダイクさん

はじめまして。投稿どうもありがとうございます。

よろずや食堂さんが閉まっていましたか・・残念ですね。マンガのモデルとなった女将さんは、私が訪問した時には大変お元気でちゃきちゃきされていましたから、再開して欲しいですよね。
Posted by bonso at 2011年11月26日 16:32
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